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中国の文献を読むということ [基本姿勢]

いや~、正直いうと、漢文、そんなに得意じゃないです。
多少は読めます。つーか、日本人、いちおー学校で漢文読む練習はしている……ですよね?
その程度。
あれは英語と同じで、慣れというものもあると思います。つまり数をこなせば、なんとなく。
この「なんとなく」が曲者なんですけどね。

日本書紀、継体天皇の24年に、こんな文章があります。

「24年の春二月の丁未の朔(ついたちのひ)に、詔(みことのり)して曰く、「磐余彦の帝・水間城(みまき)の王より、皆、博物(ものし)れる臣(まへつきみ)、明哲(さか)しき佐(たすけ)に頼る。故(かれ)、道臣(みちのおみ)謀(はかりごと)を陳べて、神日本(かむやまと)以て盛なり。大彦略(はかりこと)を申べて、膽瓊殖(いにえ)用て隆(さかり)にましましき。繼體(ひつぎ)の君に及びて、中興之功(なかごろおこるいたはり)を立てむとするときには、いづれかむかしよりさかしきはかりことによらざらむ。ここに、小泊瀬天皇(おはつせのすめらみこと)の天下(あめのした)に王たるときに降りて、幸に前の聖に承けて、隆(さか)え平ぐこと日久し。俗(ひとびと)漸(ようやく)に蔽(くらく)して寤(さ)めず。政(まつりごと)浸(ようやく)にして衰へて改めず。……(以下略)」

で、この「磐余彦の帝」からあとってのは、実は、芸文類聚、治政部、論政の後漢崔寔政論にある
「自堯舜之帝、湯武之王、皆頼明哲の佐、博物の臣、故皐陶陳謀而唐虞以興、伊箕作訓而殷周以隆、及継体君、欲立中興之功者、曷嘗不頼賢哲之謀乎、凡天下之所以不治者、常疾世主、承平之日久、俗漸弊而不寤、政浸衰而不改」
によっている、と岩波の注には書いてあるんですが。

もともとこの芸文類聚の文章は、君主を諫めるためのものなんだそうです。
ところが日本書紀では、これが天皇の詔という形になっている。
そこからして、なかなかおかしいんですが、一番の問題点はここ。

「ここに小泊瀬天皇の天下に王たるときに降りて、幸に前の聖に承けて、隆え平ぐこと日久し」というここです。ここ、芸文類聚では、
「凡天下之所以不治者、常疾世主、承平之日久、」とありまして、つまり、「およそ天下がおさまらざるゆえんのところは、常に代々の君主のねたみによる」で切って、「承平の日(つまり平和な時代)が久しければ、」と続くんじゃないかと。

これについては、実は漢文の読みは、わたくし、よくわかりませんので、やや専門家な夫にいろいろときいたんですが(爆)。

つまるところ、何がいいたいのかと申しますとですね。
たぶん、継体天皇は、この詔そのままにいったんじゃないだろうと思うわけです(^_^;)。
というのも、あまりにも漢文調でしてね。このまま、やまと言葉で読んでもやっぱりそぐわない。
これは、日本書紀を編纂する時に、実際に編集に当たった人間が、芸文類聚に当たって、適当に改竄したんだろうという気がするわけですね。
まぁ、改竄ってのはですね、もとの文章の中国の人間を日本の人間に置き換えるだけでなく、小泊瀬天皇、つまり武烈をちゃっかり「天下のおさまらざるゆえんのところ」に押し込めちゃってるあたりが、ですね(^_^;)皮肉っぽいというか、やってくれるじゃないの、という感じで。
しかも君主のねたみのせいだよ~ん、というところを、さりげなく「前の聖によって」とかごまかしちゃって。
これだけ読んだら、「幸に前の聖に承けて」でもって、なんかいいことあったんだね、とか思っちゃうわけですが、芸文類聚に当たってみると、ほんとーは君主妬んでというわけなのよ。
つまり、もとの文に当たれる人には、ここの部分の皮肉が、すばらしくよくわかるように改竄してあるわけです。

なんか、こうむらむらとですね、日本書紀の執筆に当たった当時の史(ふひと)たちのことが、知りたくなってきましたよ。
きっと、「ここんとこ、ひとつ、継体天皇かっこよくするために、演説いれてね。あ、でも、武烈おとしめちゃダミよ~ん、大伴金村の功績があるからね」と言われて、「げー、そんなむずかしーことー」と悩みつつも、とりあえず、文章はでっちあげたんだな。
できあがった文章だけ見て、検閲したやつは、よっしゃよっしゃだったでしょう。(たぶん、芸文類聚見てない)
でも、あとから芸文類聚に当たったやつは、真っ青になったろーなー。
きっと上から無理難題押しつけられた史たちが、ひそかに復讐してるんじゃないか、とかね。

妄想もまた楽しいです。


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